着物の仕立て屋は全員が“綺麗に着物を仕立て上げたい”と思っています。これをもう少し噛み砕いて、仕立て屋が持つ“美意識”として考えてみました。
美意識を考える前に
前提として、当たり前に真っ直ぐ縫えて、針目もそろっていて、キセを均一に仕立てることができる。プロとして仕立ての仕事をし、何千枚も縫っている人が考える美意識について考えてみます。私はまだ2000枚いかない程度だと思うので、この道ウン十年の先生方には及びませんが、美意識として大切にしているポイントはきっと同じだと思っています。
3つの美意識
私が持つ美意識は次の3つです。
①寸法通り仕立てる
②布が布のまま着物の形になるよう仕立てる
③縫い代の処理はシンプルで見栄え良く仕立てる
ここで言う“美意識”は、“こだわり”とも言えますが、多くの仕立て屋が持つ美意識は、だいたい共通しているんじゃないかと思います。簡単そうに見えて、たぶん難しいことなんだと思います。毎回違う生地で毎回違う寸法の着物を仕立てるので、その都度生地の様子を見ながら仕上げていきます。生地によって縫い方やコテの当て方、キセの深さを変え、これまでの経験と感覚で上手く仕上がるよう無意識にその時できる最大限の努力をしています。
“布に無理をさせる”ことへそれなりの不快感を持っています
「①指定寸法通り仕立てる」と「②布が布のまま着物の形になるよう仕立てる」を両立させることが厳しい場合があります。例えば、身巾が細く、裄が長い着物が当てはまります。この場合、両立させるために、布に無理をさせるか、身巾や裄の寸法を変更するか、どちらかの選択をすることになりますが、私は、この“布に無理をさせる”ことへ抵抗感を持っているので選択肢は一つになります。
“布に無理をさせる”ことへそれなりの不快感を持っています。
私の和裁の考え方は、布は布のまま着物の形になるよう仕立てることで、柔らかく着心地の良い着物になると思っています。そうなると「寸法通り仕立てる」を絶対するべきなのだろうか、と言う疑問が沸きます。これについて私の今の答えは、“布を歪ませてまで寸法通り仕立てる必要は無い”です。
“寸法通り仕立てる”は絶対すべきことなのだろうか
これについての私の今の答えは、“布に無理をさせてまで寸法通り仕立てる必要は無い”ですが、これは次の2つの場合によって変わります。
①仕立て寸法自体に無理が生じている場合
→仕立てが厳しい寸法は、そもそも割り出すべきではないと思っています。
②仕立て寸法は問題無いが、もともとの布が歪んでいる場合
→仕立て屋が唯一できることは、地直しという工程で歪みを矯正することです。ここで最大限努力し、歪みを整えます。それでもまだ歪んでいる場合は、この歪みを無理やり整えるよりは、布の落ち着くところで仕立てるのが良い。つまり、布に無理をさせてまで寸法通り縫う必要な無い、と思っています。
“寸法通り縫う”を手放す
修行時代は月に何十枚も着物を縫います。寸法通り、早く、綺麗に仕上げることに最大限の力を注ぎます。これが独立してもなお、寸法通り仕立てなければいけない、という縛りになっています。ある程度の段階までは絶対必要なことだと思うのですが、ある程度の段階を超えたら手放しても良いんじゃないかと思っています。実はここ数日、“寸法通り縫わなくても良いんじゃないか”と疑問に感じていたことに、真正面から“私は寸法通り縫わない”という言葉をもらい、完全に手放すことができました。“寸法通り縫う”を手放した今、私の美意識の順番が変わりました。
①布が布のまま着物の形になるよう仕立てる
②縫い代の処置はシンプルで見栄え良く仕立てる
③寸法通り仕立てる
まとめ | 美しさは日々の積み重ね
“綺麗な着物を仕立てたい”の“綺麗”は、私の中では“美しい”になるのですが、この“美しい”をもっと具体的に表すにはどう言葉すればいいのか考えています。私の理想の仕立て上がりは、“仕立てが上手過ぎてずっと見てしまう着物”です。そんな着物を仕立てるためにはどうすれば良いのか。多分、基本をきちんと行うことしか無いのだろうと思っています。真っ直ぐ縫うこと。糸しごきをきちんと行うこと。キセを均一にかけること。要所要所をきちんと仕上げること。布に無理をさせないこと。正解なんて見つけけられなくて、基本の積み重ね、日々の積み重ねでしかその美しさは表せないんだと思います。
一生勉強、生涯修行の身、常に問い続ける。私が出会う仕立て屋さんはみんなこんなことを言っていますが、多分、私もずっと自問自答しながら、その時のベストを出しながら縫い続けると思います。ひとまず、基本を積み重ねる方向で変わらず頑張ってみたいと思います。
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