ロング丈の道中着を仕立て着用して分かったこと。

綿麻のピンクの道中着をより良い見栄えになるよう衿付けラインを変えて縫い直したり、紐を変えてみたり、着方を変えてみたりしましたが、どうしてもスッキリとした好みのシルエットを作ることができませんでした。そこで今回は、そもそも道中着と言う物は、どんな願望を叶えることができるコートなのかを考えてみました。

直す前の道中着

良いように見えますが、下の写真の様に、動くと衿が縦になりシルエットが崩れます。脇に布がたくさん余っているのも気になります。

▼仕立て寸法はこちら
9分丈の道中着を仕立てました。

衿付けラインと紐を変更した道中着

衿付けラインをより胸を覆うように変更し、紐は上前と下前の衿のみ付けました。下前の衿に長い紐を付け、身体の後を通り、上前の紐と結んでいます。衿自体は着崩れることなく調子が良いですが、脇の布にシワが寄っているのが気になります。

衣紋を抜いて着用

前項の道中着を、衣紋を抜いてボディーに着せてみました。脇の布はスッキリし、衿も着崩れることなく良い感じです。気になる点は、脇線がボディーの正面へ斜めに入り込んでいるところ。道中着の構造上仕方のないことですが、巻き込んでいる布が多くなるので歩きづらいのでは無いかと想像します。

身巾を変えても変わらない

今回の道中着は前巾・後巾共に十分広い寸法で仕立てています。前巾は後巾よりも広い寸法で仕立てているので、これ以上広くする必要はないと考えています。後巾についても、着物の後巾と同寸になっているので、これ以上広くする必要はないと考えています。逆に狭くするのは良いのかと言うと、前巾・後巾を狭くした場合、前身頃の重なりが浅くなり、衿合わせはよりシャープになり、脇線が前に入り込んでくるのは変わらない、つまりシルエットは変わらないと考えます。しかし前身頃の重なりを浅くし、脇線が前に入り込んでくる具合が少なくなれば、シルエットが良くなり、動きやすくもなると思っています。

今回なぜこのような変更をしたのか

一番はじめに仕立てたとき「道中衿の雨コートは上手くいくのだろうか」と言う疑問がありました。雨コートなので丈はロングです。私の頭の中には、ロング丈の道中着はシルエットが決まらない、と漠然と思っていましたが、実際に仕立て着用し案の定決まりませんでした。雨コートが前提にあるので、身体をすっぽりと覆うような寸法になっていますし、前身頃がたくさん重なるように着用したいと言う願望から、今回の変更をしています。変更して分かったことは、道中着とはそのようなコートではないと言うことです。次の項にそれをまとめてみました。

まとめ

道中着は少し衣紋を抜いて着用することで、脇の布の余りをスッキリ見せることができると言えます。また道中衿は裾から反対側の裾まで一枚の布で「衿」ができているので、縦長のシルエットになります。前身頃の重なりは必然的に浅くなり、身体をすっぽり覆うシルエットを求めることは、そもそもその様な造りでは無いと言えそうです。つまり、「ほどほどに短い丈で動きやすくてサッと羽織れるものが欲しい」と思ったら道中着が良いと言えます。

その他気がついたこと:
肩明きは狭くしても良いと感じました。今回は「肩明き=着物の肩明き+2分」と言う、コートの標準寸法で仕立てましたが、やはり肩から布が滑り落ちる感覚があり、着物と同寸、または、−1分程度でも良いと思っています。
脇線が前に入り込んでくるのは、コートの丈が長くなればなるほど入り込んできます。なので、丈がほどほどに短ければ問題ないと考えています。「ロング丈で身体をすっぽりと覆いたい」と言う願望と道中着と言うのは、相性が良くないと言えます。

このコートの今後:
このままでは脇の布が余ることが気になって着られないので、一旦解いて、一から仕立て直したいと思っています。ロング丈の別のコートにするか、全く違う物にするかは、考え中です。

関連記事

この記事を書いた人

KOTARO

現役和裁技能士が「仕立てと着姿」をテーマに、どんな寸法で、どんな仕立てをすると、どんな着姿になるのか、自分自身の身体で検証しています。