大人気 綿麻着物「 新之助上布 」の製造現場へお邪魔しました。

現在入手困難となっている大人気の反物「 新之助上布

その魅力は、ふわっと軽い着心地と、太陽光の元で玉虫色に輝く美しさ、
そして、自宅で手入れが可能というところではないだろうか。

今回、その製造現場へ伺い、実際に織っているところを見せていただいた。

新之助上布
工場見学

新之助上布 の産地は滋賀県彦根市

名古屋から約1時間半。
新幹線と在来線を乗り継ぎ、途中、彦根城を横に見ながら
最寄り駅「能登川駅」で下車。

能登川駅
能登川駅

能登川駅から車で10分ほど移動すると
新之助上布の製造工場に到着する。

新之助丈上布
工場見学
大西新之助商店 入口

新之助上布 製造担当 “優ちゃん”に話を伺った。

“優ちゃん”の愛称で新之助上布のブログにも登場している
製造担当の浦辺優子さんから製造工程についてお話しを伺った。

「手に入れることすら難しいほどの大人気の反物ですね。」とその人気ぶりを伺うと、
「名前だけが独り歩きしているような気持ちです。」と、“優ちゃん”は言う。

今の人気を作るにはとてつもない努力と試行錯誤があっただろう。
“優ちゃん”の話には、謙虚さと真剣に布に向き合っているものを感じた。

新之助上布
写真①

特徴①「柔らかさ」について

新之助上布には、綿麻と本麻の2種類がある。
今回は、主に綿麻の反物製造について話を伺った。

新之助上布を実際に触ったことのある人なら分かるかもしれないが、
その手触りは、とても柔らかく、ふわっとしている。
一般的な木綿着物は、どちらかと言うと地厚で、独特の張り感がある印象だが、
新之助上布は、ガーゼの様な優しい印象を受ける。

この柔らかさについて伺うと、
糸の段階で、あえてダメージを与えている」と言う。

新之助上布は、染色前の糸を特殊な液体に潜らせ、
その後、染色、織機にかけて反物を織っていくという過程を辿っている。

話を伺っていると、“特殊な液体”に潜らせることが一番の特徴のように感じた。

特徴②「シボ」について

また、涼やかな印象を受ける独特のシボについて伺った。
糸に撚りはかけて無い。全て手揉みでシボをつけている。」と言う。

撚りをかけないこと、糸の段階で事前に縮ませておくこと、
そうする事で、着用後、生地が縮まないよう工夫がされているそうだ。

それでも「仕立てる前には水通しをして欲しい」と話す。

特徴③「光沢」について

太陽光にあてると玉虫色に輝く反物がある。
その秘密は、経糸と緯糸の色の組み合わせにあると教えてくれた。

経糸と緯糸の色相が近いものはマットな印象の反物になり、
色相が遠いもの(補色)は、あの独特の光沢を生み出す。

“光沢”と言うと、絹に求める場合が多いが
綿麻の反物であれだけの光沢を見ると、一瞬で魅せられてしまう。

新之助上布
経糸ピンク×緯糸緑:太陽光の下で玉虫色に輝く反物になる。

特徴④「同じ色・柄の物は存在しない」

経糸を長くすれば、今よりももっとたくさん織ることができるが
色や柄が同じ反物ばかりができてしまう。
なるべく色々な色柄の反物を作るために一度に織るのは、
経糸6反分までと決めている。

と“優ちゃん”は話す。

新之助上布の織機は、3反分の巾を一気に折り、
手前に取り付けられている刃でカットする方法で作られていた。
(写真② ピンクと青の間に刃が取り付けられている)

写真②

経糸の色を変え、緯糸の色は3反とも同じ色で折られている。
写真①を見ると分かるが、経糸は、ピンク、青、緑、の3色が張られているが
緯糸は、ピンクのみ。

つまり写真①は、
ピンク×ピンク、青×ピンク、緑×ピンク、の3反が織られているのである。
経糸6反分が織り終わると、写真③のような“バームクーヘン”が出来上がる。

経糸と緯糸の組み合わせは無限にあり
縞や格子、グラデーションなどの柄を組み合わせると
「同じ反物は存在しない」と言うのがよく分かる。

写真③

実際に工場へ伺ってみて

私たちが伺ったその日の朝、織機の故障により、
残念ながら動いている姿を見ることはできなかった。
しかしそのお陰で、何千本もの経糸が織機に張られている姿を
じっくりと見ることができた。

経糸の繋ぎ方、糸の設計、織機の手入についても丁寧に教えてもらい
着物を仕立てるのも手間がかかるが、布を作るのもとてつもなく手間がかかると実感した。

“近江のお母さん”は、
「今はほとんど“優ちゃん”が織ってる。この子がおらんようになったら新之助上布は終わりや。機械も今のが動かんようになったら終わりやな。人間が先か、機会が先か。」
※近江のお母さん:新之助上布織師 大西實氏の妻

「人間が先か、機械が先か」

和裁をしているとよく耳にする。
その現実を目にするたび、儚い気持ちになる。

しかし!
新之助上布の綿麻着物は、素晴らしい!

実は今、綿麻の着物を自分用に1枚仕立てている。
手触りはもちろん良いが、仕立てもしやすい。
糊が付いていない分、針通りがとても良い。
着用は、春先や秋口にもってこいの生地だ。

最後に個人的な願いとして、“優ちゃん”に
本麻のダークカラー製造を希望して帰路についた。

新之助上布 ホームページ

新之助上布の販売担当 小倉奈夕子さんと。

この記事を書いた人

KOTARO

現役和裁技能士が「仕立てと着姿」をテーマに、どんな寸法で、どんな仕立てをすると、どんな着姿になるのか、自分自身の身体で検証しています。