よく言う「衣紋をたくさん抜きたい時は、繰越を大きくする」は、基本は合っているけど、それだけでは無いことを少し解説したいと思います。
衣紋をたくさん抜くとは
着物を着るときに衣紋を抜きますが、「衣紋を抜く」という動作は、「前にある布を背面へ動かす」ことになります。「衣紋をたくさん抜く」とは、「前にある布を背面へ“たくさん”動かす」ことになります。ここで言う「たくさん」とは、どの程度のことを言っているのかが問題になりますが、よく言う「拳ひとつ分」という表現を使うならば、「たくさん=拳ふたつ分以上」とすれば、どんな人でも「たくさん衣紋を抜いているね」と納得できると思います。例として、衣紋をたくさん抜いて着用した写真を下に載せました。

衣紋をたくさん抜く時は、繰越を大きくする
基本はこれで合っていて、衣紋をたくさん抜いて着る場合は、繰越の標準寸法5〜8分のところを、1寸〜1寸3分程度に大きくします。この時大切なことは、1寸〜1寸3分という大きな繰越で着物を仕立てたとき、着付けでも「衣紋を抜く」と言う動作をきちんとすることです。上の写真は、繰越1寸5分の長襦袢を着用しています。「繰越を大きくした分、衣紋もたくさん抜く」と言うのが基本です。
繰越を大きくすると言うことは、どういうことなのか
繰越を大きくすると言うことは、着付けで衣紋を抜かなくても、すでに衣紋が抜けた状態を作っていることになります。例えば繰越を1寸5分にしてしまえば「衣紋を抜く」と言う動作をしなくても抜けた着姿を作れます。下の写真がその例です。繰越1寸5分の長襦袢を衣紋を抜くと言う動作をせずに着用しています。

繰越が小さくても、衣紋はたくさん抜ける
繰越寸法が小さくても、着付けで衣紋をたくさん抜くことはできます。前にある布を背面へたくさん移動させれば良いだけの話で、3cm動かすところを5cm、7cm、10cmとたくさん動かせば良いのです。標準の繰越寸法の着物でも「衣紋をたくさん抜く」ができます。むしろ繰越は小さい方が、着付けで衣紋の抜き具合を調整できます。下の写真がその例で、繰越3分の長襦袢を着用しています。繰越は小さくても衣紋を抜くことはできます。

まとめ
「衣紋をたくさん抜く時は、繰越寸法を大きくする」は基本の考え方ですが、「衣紋をたくさん抜く」の捉え方が人それぞれであるところに不確定要素があると思っています。着付けで衣紋を抜くと言う動作をしたい場合は、繰越寸法を大きくし過ぎると、その動作ができなくなります。着付けで衣紋を抜かなくても抜けた状態を作りたい場合は、繰越寸法を大きくすることでそれが叶います。「衣紋をたくさん抜く」を噛み砕いてみなければ、繰越を大きくするべきなのかどうかが分からないと思っています。
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