シャープな衿合わせが得意な着物を、深い衿合わせで着用すると、どんな影響があるのか?!

動きとともに崩れる「衿の着崩れ」の大きな要因は
抱巾の寸法と位置にあります。

ここでは、抱巾を最大限脇側で取って仕立てた着物
着付け練習用ボディに、私の好みでもある、
「深い衿合わせ」になるよう着せてみたところ
思わぬ影響が現れました。

どんな影響が表れたのか、詳しくお伝えしたいと思います。

仕立て寸法

  • 身丈 4尺2寸5分
  • 裄 1尺8寸
  • 袖巾 1尺5分
  • 袖丈 1尺4寸
  • 袖付け 6寸
  • 見八ツ口 4寸
  • 前巾 6寸5分
  • 後巾 7寸5分
  • 抱巾 通し
  • 衽巾 4寸
  • 合褄巾 3寸7分
  • 褄下丈 2尺1寸5分
  • 衽下り (肩)6寸
  • 肩明き 2寸3分
  • 繰越 3分
  • 衿付け 5分

《仕立て寸法のポイント》

  1. 肩巾=後巾
  2. 繰越3分・衿付け5分
  3. 抱巾を脇側で取ったこと

なぜ抱巾の取る位置にこだわるのか

同じ抱巾の寸法だとしても
反物巾のどこで抱巾をとるのかによって、衿合わせの角度が決まるからです。

5年前、ある寸法で浴衣を仕立てました。
着てみると、時間とともに、衿が開いてしまし
かなりシャープな衿合わせのところで落ち着きました。

「やだなー」という感情と
「着物と同じ寸法で仕立てたことが良くなかった」という反省と
「抱巾はこんなにも重要なのか」という衝撃と

1度しか着ていない浴衣から、たくさんのことを学びました。

5年前の寸法とは、
抱巾はバスト寸法から計算で割り出した寸法を
反物巾のちょうど真ん中あたりに取った仕立て方です。

抱巾は、今よりも少し狭く
抱巾を取る位置も、少し脇よりの仕立て方でした。

抱巾を脇よりに取ると、衿合わせがシャープになる
ということを実感したことをキッカケに、

抱巾を反物巾のどこで取るのか、にこだわっています。

シャープな衿合わせが得意な着物を、深い衿合わせで着用すると、どうなるのか

着付け練習用ボディに、上記サイズの着物を着せてみました。
(着物は、ボディにとっては少し大きいサイズです。)

ボディのサイズ:バスト83㎝、ヒップ88㎝
着物のサイズ:バスト88㎝、ヒップ93㎝相当

ボディの着姿(深い衿合わせ)
写真①深い衿合わせ(着用直後)

衿合わせは、直角になるように着せました。(写真①)

一見すると脇の布のあまりがなく
綺麗にスッキリと着ることが出来ているように見えますが

動くと、下の写真のようになります。(写真②)

ボディの着崩れ(深い衿合わせ)
写真②深い衿合わせ(動いた後)

綺麗に着せた後、お袖に腕を通し、動かしてみた後の写真です。
注目は、脇の布が出てきているところです。

動いた後の着崩れは、衿だけでなく、
見八ツ口からバストトップを結ぶように出てくる脇の布にもあると思います。

注意してもらいたいのは、写真②のような脇の布の余り方が、
良いのか・悪いのかではありません。

大切なのは、
この布の余り方が、「好きか・嫌いか」ということです。

着崩れをどう捉えるのか

多少の着崩れは、こなれた感じを演出することができ、
決めすぎていない着姿は親近感が沸き、着物が動いてもそれを認めることで自然体であることを、周りに表現できると思っています。

ただ、「多少」というところが重要だと思います。

どの程度の着崩れなら許せるのか。
どこの着崩れなら許せるのか。
着崩れが予想できているのか。

きっと着物を着る人は、私も含めて
「許容範囲を超えない着崩れ」を望んでいることでしょう。

許容範囲を超えない着崩れとは・・・

「許容範囲」は一つポイントになると思います。

完全に許せない着崩れのアウトラインは、
着物を着る人、着物を着せる人、着物業界関係者など
全体を見渡すと、揃っているように見えますが

「許せる着崩れと許せない着崩れの境界線」は、
着物を着る人・着せる人それぞれ、さまざまな境界線を持っていることでしょう。

この「境界線」を私はどこに置いているのか。

境界線までいかなくて、許せない着崩れに達するまでの
「グレーゾーン」は、どの程度あるのか。

この「境界線」と「グレーゾーン」をある程度固めておくことが
着物とうまく付き合っていくポイントだと思っています。

私の許容範囲は、衿が動かなければすべてオッケーです。

まとめ

今回、棚から牡丹餅でしたが、写真②のような着姿を作ることができました。実は、ずっと疑問でした。

なぜ写真②のような着姿になるのか。
どんな寸法を、どんな人が、どんな着方をしていると、
写真②のような着姿になるのか。

写真②のような着崩れは、私自身は経験したことはありませんが
このような着姿の方を度々見かけていました。

なぜそうなるのか。
何が原因なのか、ずっと疑問でした。

そうなる着物を仕立てたいと思っても、原因が分からず仕立てることすらできないでいました。

だから「棚から牡丹餅」です。

抱巾は十分にあるが、抱巾の位置が脇よりにあり、
衿合わせを深くしたとき、写真②のような着崩れが起こる。


やっと着崩れの要因のひとつを見つけられました。

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この記事を書いた人

KOTARO

現役和裁技能士が「仕立てと着姿」をテーマに、どんな寸法で、どんな仕立てをすると、どんな着姿になるのか、自分自身の身体で検証しています。